「帝国の『辺境』にて ー西アフリカの第1次世界大戦 1914〜16ー 」
(RNVR花組・こんぱすろーず)

以前から面白いという噂を聞いていた本を、コミックマーケット83でようやく入手。第1次世界大戦の中でも、それほど顧みられることのなかった戦いだろうが、戦いの推移だけでなく、当時の植民地が抱えていた事情や、関わった人々それぞれの思惑なども書き込まれた、読みごたえのある一冊である。
 まず印象に残ったのが、第1次世界大戦というものが、この辺りの植民地にとっては(欧州でもその傾向はあったろうが)、「訳がわからないうちに始まって、否応なく巻き込まれてしまった戦争」だったということ。それぞれの植民地は、本国とのつながりはあるとは言っても、隣接する他国の植民地ともまた貿易しており、治安維持などの面で、協力しあうことも多かった(この辺りは、「未開の地を教化する」同志としての連帯感のようなものがあったもかもしれない)。降ってわいた戦争が数年に渡る大戦争になると予想するものは誰もおらず、これまで築いてきたインフラを守ろうと、あくまで小規模な戦いで終わらせようとするも、戦いに積極的な現場指揮官に引きずられる形で、事前の計画を越えて戦火が広がっていく*1。それでも、ドイツの無線局を確保するという明確な目標があったトーゴランドの場合には、ひと月足らずのうちに戦争は終わったが、「あんまり関心ないけどドイツ領だから攻撃するか」的なノリで始まったカメルーンの場合には、「港だけは確保して、ドイツ海軍が使えないようにすっか」と考えるイギリスと、「この際全土を占領して、ウチの領土を広げてやるぜ!」と張り切るフランス(というか植民地担当の大臣と現地の総督)との間で目的が食い違ったまま、戦争がだらだらと続き、やがては欧州の戦争ともあまり関わりを持たなくなってゆく。
 そしてもう一つの特徴が、現地の自然の過酷さ。軍隊がまとまって行動できるのは、河川とわずかに存在する鉄道に沿った細長い地域のみで、そこから外れた部隊はたちまち道に迷い、弾薬や食料を運ぶ家畜もツェツェバエにやられて斃れていく。それを補うためにかき集めた現地人のポーターもとても数が足らず、敵と戦う前に、まず自分たちが生存するだけで精一杯の有様*2。そういった中で、ある者はあくまで本国の命令に忠実であろうとし、またある者は帝国の中で有利な地位を得るために激しく戦い、さらにある者は勝ち馬に乗ることで、自らの保身を図る。
 しかしそうまでして手にいれた領土もまた、本国の人間にとってはあくまで取るに足らないものでしかない。カメルーンの章の終盤、イギリスとフランスとで領土の分割を相談する場面で、イギリス側の担当者が無造作に1本の線を引き、その結果、ドイツ領カメルーンのほぼ9割が、フランスの領土に編入される。この呆気無い終わりこそが、帝国の辺境であるとはどういうことであるかを、実にわかりやすく示しているように感じた。
 

*1:何やら満州事変を彷彿とさせる。もっともこちらの場合には、独断専行した指揮官がそのまま野放しにされることはなかったが

*2:これまたニューギニアインパールを連想させる話ではある